第9章 他の手段:心構えが変える 【4/5】

少し違ったアプローチで、仕事英語を考える

  

 上を踏まえ「お互い様」の関係を別の言い方で表しますと、「1:1の関係」ということになります。 何か1つ助けてもらったら、1つお返しする関係なわけですから、非常に均等のとれた平等な関係です。これに対し、もしある特定の人との仕事関係が「1:2の関係」だったとしたら、つまり自分が1つ助けてもらったら、2つお返しするような関係だったら、どうでしょう? その関係はまだ「お互い様」の関係と言えるでしょうか? では「1:3の関係」だったらどうでしょう? この関係を表す比率が上がれば上がるほど、不公平だと思う気持ちが強くなるのではないでしょうか。

 

 ここで紹介します1:4の法則とは、海外のカウンターパートとのビジネスリレーションを構築する際は、「1:4の関係」がバランスのとれた「お互い様」の関係になることを提唱しています。1度助けてもらったら、4回相手を助けて初めて「お互い様」の関係が成立するということです。これについて、どう思われますか? どう考えてもこれは不公平だと感じる方もいるかもしれません。確かに、もしこれが自分の隣に座っている職場の同僚との間でしたら、そう思うのは当たり前かもしれません。しかし相手は異なる文化や習慣をもった人、つまり「文化の壁」を隔てたところにいる人です。お互いが思う「常識」や「当たり前」が異なる状態で、相手がどれだけ自分を助けてくれたかを正確にカウントすることが果たして可能でしょうか。

 

 普段自分がビジネスの場においてとる言動は、社会人として、そして組織の一員として「正しい」振る舞いかもしれません。しかしこの「正しい」言動として判断される基準は、あくまでも自分が生活している環境の中でのことです。社会人として生活する環境や基準が異なるところにある場合は、日本では「正しい」とされた言動も「間違い」として受け止められることが少なからずあることを認識する必要があります。

 

 ある日本人ビジネスマンがその人の常識の中で、海外の仕事相手に対し「正しい」振る舞いをしているとします。そしてその人との間で何も問題らしい問題が起きていないとしたら、良好な関係を構築できていると言えるでしょうか。

 

 人間関係は本当に上手くいっているかもしれませんが、実はそうでないかもしれません。ひょっとしたらその人の仕事相手が、見えないところでその人の「間違い」をフォローしてくれているからかもしれないからです。日本人ビジネスマンとしては、常に「正しく」振る舞っていると思っていますので、自分が間違いを起こしているという認識は全くありません。こういったことが起こる可能性は、相手の国の「当たり前」を完全に理解しない限りゼロであるとは言えません。知らないうちに相手に助けられている(迷惑をかけている)可能性が絶対にないと断言できない限り、1:4の法則はビジネスリレーションシップを構築する上で、有効な手段となるのです。

 

 1:4の法則に従って我々が相手に対して行う行動は、4回助けたうち3回は相手に全く認識されないまま終わってしまうかもしれません。「当たり前」の基準が同じではないのですから、認識されないことがあっても別に驚くことではありません。せっかく助けてあげているのに、それに気づかないのは少々腹立たしいかもしれませんが、そういうときに、それはそれでよいのだ、と思えるかどうかが仕事をスムースに進展させられるかどうかの分かれ道になるかもしれません。

 

 相手を助けることも「お互い様」ならば、相手に助けられたことを気付かないのも「お互い様」だ、と思えるかどうかです。あなたはどう思いますか?

 

 海外のカウンターパートと良好なビジネスリレーションシップを築く上で、ここに紹介しました1:4の法則は有効な手段であり心構えです。また、この法則を自分の心の中で我慢することなく受け入れられるようになりますと、気持ちも楽になりますし、その結果、仕事もスムースに進むようになると思います。

 

 

9.5. まとめ

 

 この章では、これまでに紹介したテクニック以外で、英語のコミュニケーションをスムースにし、仕事をより上手に進展させる手段を4つご紹介しました。この章のタイトルに「心構えが変える」と付け加えたのは、ご紹介しました内容が英語のコミュニケーションにおける技術的な要素よりも、頭の片隅に置いておくと便利な知識や考え方、つまり英語によるビジネスコミュニケーションおける心構えだったからです。この他にもまだありますが、今回はとりあえず4つにしました。

 

 

 

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