第9章 他の手段:心構えが変える 【3/5】

少し違ったアプローチで、仕事英語を考える

 

 海外の企業や人々に対して行うビジネスコミュニケーションは、誰が聞いても(もしくはメール文書などを読んでも)意図することが間違いなく伝わり、その理由も客観的に理解できるようにする手段、つまり論理的に情報を組み立てて発信することを常に心がける必要があります。これを踏まえ、下の文例を見てみましょう。

 

   We need to ask you to deliver additional 2,000 units for the

   shipment next week.

 

   I do realize that this would mean you will need to make changes

   to the current production plan and schedule. I certainly

   understand how difficult it is for you to do so. However, if we

   cannot deliver these additional 2,000 units to our customer next

   week, we will have big problems. I need your support. Please

   help us.

 

 上の文書を読めば、送り主が何を伝えたいかは明確です。来週製品を出荷する際、2,000個を追加して送ってほしいとお願いしています。この依頼についての理由は、それができなければ顧客との間で大問題になる、という内容になっています。

 

 もしこの文書を受け取った人が、この件においての全ての権限を持っており、また差出人との間で良好な信頼関係ができていれば、これだけで問題ないかもしれません。しかし、現行の生産計画を変更しなければ対応できないということは、多くの人が関わる調整作業が必要となるものです。現在進行中の生産計画を変更し、それを実行するということは、大変な手間と労力を要するものです。余計なコストも当然かかります。ですからこの依頼を実行するには複数の部署(製造、資材、物流、検査などの組織)が判断する際に関わらなければならないことを想像するのは、それ程難しくありません。従って、この人だけが承認すれば問題ないと仮定するのは現実的でないでしょう。

 

 自分が依頼したいことに対し、「No」と言われるために情報作成などに時間を費やすことほど無意味なことはありません。依頼した事項に対してその理由を関係する人々に納得してもらい、「Yes」と言わせる、つまり引き受けてくれるだけの材料を提供しなければなりません。それを実現するためには、上の文例のように相手の感情に訴えるメッセージのみではなかなか上手くいきません。

 

 物事に対する感情の持ち方は人によって異なります。ましてや相手が文化や習慣の異なる海外の人たちの場合、「当たり前」の基準が異なる分、自分のメッセージに対する感情の持たれ方を予測・コントロールするのは至難の業です。こうした人たちとのコミュニケーションでは、論理的できめ細かい情報のやり取りを心掛けることが仕事をスムースに進める最も有効な手段となります。

 

 上のケースで、もし2,000個の追加が必要になった理由が前回顧客に納品した製品に不具合が見つかり、すぐに取り換えなければならない事態になっているのならば、それを伝える必要があります。または、もしこの要求にこたえられない場合は、近日予定している次の大口のオーダーが取れなくなるということであるならば、なぜそういう状況になっているかを論理的に説明する必要があります。製品の不具合については生産側の責任も少なからずあるので、先方も真剣に検討せざるを得なくなるでしょうし、次回の大口オーダーに影響が出るならば、ビジネス的な判断が必要になるでしょう。

 

 しっかりと人間関係が構築できた人に対して論理的な組み立てによる情報の提供は必要ないと思われがちですが、これは自分の仕事相手だけでなく、その他の関連する人たちに自分が発信する情報を浸透させる力を付けることにもつながります。論理的できめ細かな情報は、連絡の窓口として接している自分のカウンターパートが、その後ろに控えている人たちに伝えられた情報を早く理解させるための手段にもなるのです。

 

 

9.4. 1:4の法則

 

 人と人との関係を表す表現で、「お互い様」だとか「持ちつ持たれつ」といった言葉があります。この「お互い様」や「持ちつ持たれつ」の関係とは、どういう状態のことをいうのでしょうか。辞書の力を借り、「お互い様」の意味を調べてみますと、「互助、お互いに助け合うさま」といった種の事柄が記載されています。

 

 英語にも似た意味を持つ表現があります。「Give and Take」や「Fifty-Fifty」がそれにあたります。相手に助けてもらったら、その相手に対しお返しする。「Fifty-Fifty」という表現でも分かります通り、1つ助けてもらったら、1つ何かをして相手を助けることができている、五分五分の人間関係のことである、と言ってよいと思います。

   

 

  

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