第9章 他の手段:心構えが変える 【2/5】

少し違ったアプローチで、仕事英語を考える

 

 こうした表現の極端化が起きないように、正しい英語の表現を使いましょう、というメッセージをお伝えするためにこうした事柄を紹介しているのではありません。また、たとえそうお伝えしたところですぐに変化がみられることでもありません。もし本当に上のように生じる情報のずれや極端化を克服できるようにするには、我々の英語のスキルレベルを相当上げなければなりません。英語のスキルを上げるための継続的な努力は必要ですが、それが形となって現れるまでには時間がかかります。

 

 極端化した表現をしないということではなく、自分はそういう表現をしがちだということを頭の片隅にとどめておくことが大切です。そしてそうした自分の「特性」を踏まえ、英語でコミュニケーションをとるようにしましょう。

 

 

9.2. 「Thank you」の標準化

 

 「Thank you」、つまり感謝の意を伝えることの効果については、あまり長い説明をする必要はないでしょう。

 

 ありがとう、はたいへんパワフルで便利な言葉です。なぜならそれを言うだけで人間関係をスムースにできてしまうからです。これは相手が日本人であろうが、海外の人であろうが同じです。誠意のあるありがとう、「Thank you」は海外の仕事相手とのコミュニケーションにおいても効果を発揮します。相手にしてもらったことや、これからしてもらうことに対して感謝の意を表すことは、ビジネスリレーションシップの構築において、大きな効果を発揮します。これを上手く活用し、コミュニケーションをスムースに進めていくように心がけましょう。

 

 【注】上で「誠意のあるありがとうは効果を発揮する」と記したのは当

    然意味があります。「こんなに厄介の問題を作ってくれて、どうも 

    ありがとう。」といった、皮肉を込めてお礼を言う場合はこれに当

    てはまりません。言うまでもないことでしょうが、このような

    「Thank you」の使い道は、海外の人との人間関係をスムースに

    することでは、逆効果になることが多いでしょう。

 

 第5章で紹介しましたセルフ・ポジショニングを築いていく上でも、「Thank you」を使うことは、自分が「予測可能な存在」になるうえで有効な手段になります。例えば、カウンターパートに連絡する際は、必ず「Thank you」を1回は使うようにすると、相手にとってこの「Thank you」と言われることが予測できる行為になっていきます。必ず「誠意ある」お礼を言ってもらえるのですから、相手にとってもこの「予測可能な行為」は嬉しいことになるとは言わないまでも、受け取って悪い気はしないものになるのは間違いありません。

 

 情報を提供してもらった後の返信には、「Thank you for providing me with updated information.」でスタートできます。また、アクションの依頼をする連絡の場合は、依頼内容を伝えた後、「Thank you for your understanding and support for this activity.」といった形で「Thank you」を伝えることができます。

 

 上に挙げた例は、「Thank you」が言いやすいパターンです。ビジネスコミュニケーションには、必ずしもこれがスムースにできないようなやり取りもあります。情報と伝える相手にとって嫌なことを伝えるとき、例えば、クレームや拒否の意を伝える場合や、遅延や値上げなど、相手にとって「bad news」を伝える場合などは、なかなか「Thank you」を盛り込みにくいものです。そんな状況でも何か感謝の意を伝えることができるトピックを見つけ、それを伝えることによって、関係を深めていく手がかりを掴むこともできます。

 

 「Thank you」は日常の生活において、大変便利な言葉ですが、ビジネスコミュニケーションにおいても、魔法の言葉(magic words)になることをここで紹介しておきます。

 

 

9.3. 相手の感情に訴えるよりも、きめ細かな論理的思考で

 

 海外のカウンターパートと仕事を進めていくには、情報交換しながらお互いに様々な決断を積み重ねていかなければなりません。こうした決断の中には、権限上、自分のみで行えるものもあれば、職場の同僚や上司と相談しなければできないものや、組織や会社全体で考えなければならないものもあります。

 

 全ての判断を自分だけでは下すことができていないのは、自分だけでなく、海の向こうのパートナーも同じであることを認識しておく必要があります。判断する内容が難しくなればなるほど、判断するプロセスに加わる人が多くなります。多くの人が関われば関わるほど、判断すべき内容について説明する機会が増えていきます。これは、海外のカウンターパートにとっても同じことです。

 

 ある程度人間関係が構築できた相手に対して何かを説明したり依頼したりするときは、相手の感情に訴える表現、例えば「困っているから助けてほしい、何とかしてほしい。」ですとか「申し訳ないけれど、サポートしてほしい。」といった表現で十分ことが足りるケースがでてきます。このような信頼関係を構築できているのは素晴らしいことですが、依頼した内容がその人だけでは判断できないものであった場合、こうした感情的な表現はかえってことを難しくしてしまいます。なぜならあなたのカウンターパートが決断するために相談しなければならない同僚、上司、そしてその他の関連する人々に対しては、あなたの感情的な訴えが響かない可能性が高いからです。

 

 

  

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