第9章 他の手段:心構えが変える 【1/5】

少し違ったアプローチで、仕事英語を考える

 

9.1. 英語の表現は極端化してしまう

 

 突然ですが、色と色に付けられた名前について少し考えたいと思います。

 

 色にはたくさんの種類があります。たくさんの種類があるということは、色には他の色と識別できるよう、一つ一つに名前がついているということにもなります。つまり、色の名前も色と同様にたくさんあるということです。これは英語でも日本語でも同じです。

 

 例えば、色が黄色から赤色に変わっていく中で、名前がついている色がどれくらいあるか考えてみましょう。あなたはどれだけの色を言うことができますか? もちろん、日本語で結構です。黄色から赤色までのレンジですから、黄色、山吹色、黄金色、橙色、朱色、赤色といったところでしょうか…。ここに挙げたものよりもたくさん知っている人もいるでしょう。では、今度は同じことを英語を使って行ってみてください。もちろん辞書の仕様は禁止です。どれくらい挙げることができますか?

 

 結果を想像するに、英語で挙げられる色の数は日本語のそれと比べて大幅に減ってしまったのではないでしょうか。

 

 これは何を意味しているのでしょうか? 間違いなく言えることは、自分が知っているボキャブラリーは、母国語である日本語と英語の間では格段の差がある、ということです。普段日本語を母国語として活用し生活する以上、自分が知っている英語のボキャブラリーは日本語と比べて少ないということは同然です。同様に、英語を使って表現できることは、日本語でできることと比べ圧倒的に少ないということも言えます。知っている単語や表現方法が少ないのですから、これも当然のことです。

 

 英語を使って表現できることが限定されているのを別の言い方にしますと、英語を使って第三者に伝えることができる情報は、日本語で行うよりもきめ細かくない、または大雑把になってしまうことになります。さらにこれを別の言い方をすると、我々が英語で発信する情報は、どうしても極端化してしまうということになります。ここで言う情報が極端化するとは、例えば3,250という数字を四捨五入して3,000にしてしまう感覚に似ています。

 

 もう一度先ほどの色の話に戻ってみましょう。英語でコミュニケーションをとる相手に好きな色は何かと聞かれたとします。そしてその答えが「山吹色」だったとします。英語で「山吹色」を何というか知っていれば問題は発生しませんが、知らなかったとしたらどうなるでしょうか。質問された人は、黄色でもないし、オレンジでもないし…、と色々悩んだ末、英語で知っている単語の中で一番近い色は黄色なので、「yellow」と伝えたとします。さて、この情報は極端化されたでしょうか。本当は黄色と赤の中間色である「山吹色」を表現したいのに、「yellow」と伝えたとしたら、発信されたこの情報はやはり極端化されたことになってしまいます。(ご参考までに、「山吹色」は英語で「bright golden yellow」というのだそうです。)

 

 海外のカウンターパートを相手に英語を使ってコミュニケーションをとるときも、我々日本人が発する情報は、知らず知らずのうちに同じような情報の極端化が起きる傾向にあります。我々が使う英語は、知っている、または使うことに慣れている表現方法が限られているので、どうしても表現が実情よりも少しずれた(極端化した)形になってしまいがちです。日本人である以上、日本語で思いつく表現と英語で表現できるものとのギャップがあるのは当たり前ですから、これは仕方のないことです。

 

 例えば、「都合がよいときに連絡をください。」と英語でカウンターパートに伝えたいとします。「Please contact me whenever you have the time.」ですとか、「Please get back to me at your convenience.」という形で伝えれば意図した事と同じ内容になるのですが、「Please contact me as soon as possible.」といった緊急性が高くなった表現を知らず知らずのうちに使ってしまうことがあります。「as soon as possible」は日本人にはポピュラー表現と言いますか、中学の英語で習うフレーズということも関係あるのか、我々にとって使いやすく感じてしまう表現です。

 

 その他にも、「この件については少々気にかかりますので、注意しておいてください。」を、「Since I am a bit concerned about it, please keep an eye on it.」といった表現ではなく、「I am worried about it.」ですとか、心配している内容を「problem」と表わし問題として表現する、または、注意してほしいということを「be cautious」という表現ならまだしも、「take actions if necessary」として、何か起きたら対応してほしいという内容に変更してしまうこともあります。これらを組み合わせた場合、先方に伝える情報は最終的に次のようになってしまいます。

 

  「Since I am worried about this problem, please take actions if

  necessary.」

 

 ちょっと気がかりだと思っていることが、既に存在する問題に対し危惧しているので対策を打ってください、という内容に変化して伝わってしまっています。もちろんこれは、英語にする情報が極端化することを少々「極端な」例を用いて説明しています。実際にはここまで変化してしまうことはないかもしれません。しかし我々が英語を使った表現に限りがある存在である以上、こうした情報の極端化が少なからず起きてしまうのも事実です。

 

 

  

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