第4章 問題をカスタマイズする 【3/3】

「文化の壁」と2つの「英語の障害」が及ぼす影響について

   

 海外の企業や人々との提携事業には、予期せぬトラブルが頻発することはここで改めて説明する必要はないと思います。多分、この本を読まれている方の中には、日本人同士で行う仕事では考えられないような問題を多く経験した方もいらっしゃるでしょう。こうしたトラブルは、伝達した情報のちょっとした認識のずれや誤解から生じることがほとんどです。つまりお互いが感じる「当たり前」のずれが、ことの発端となるのです。問題が生じたらすぐに対処すれば解決できることがほとんどですが、お互いに「当たり前」だと思っていることなので、この問題にはなかなか気づきません。

 

 気がついた時には、このずれが他の事柄へも連鎖反応を起こし、収拾が困難になるくらい大きくなってしまいます。こうした現象は、英語という「共通事項」が、いかに仕事上の人間関係を構築することや、お互いの理解を深めることにおいて、役に立たないものであるかを表しています。

 

 あなたは、海外の仕事相手との人間関係において、英語を使って情報交換できることを過剰評価していませんか? お互いが英語を使えることだけで、安心してしまっていませんか?

 

 

4.4. 本当は警戒心と不信感だらけの関係

 

 なぜ海外との連携事業では、発生する必要のないトラブルが発生してしやすいのでしょうか? もちろん、同じ国の企業やパートナーと行う事業では問題が生じないということではありません。提携事業というものは、相手が国内外を問わず、問題は発生しやすいものです。しかし、海外のパートナーとの事業で発生するトラブルは、その規模や頻度とも国内のものとは比べものにならないくらい多いのも事実です。

 

 同じ国の企業と進める事業と海外の企業との事業で決定的に違うのは、コミュニケーションをとるときに使う言語です。つまり、母国語である日本語を使うか、国際語である英語を使うかの違いです。英語を使うコミュニケーションは、「文化の壁」と2種類の「英語の障害」が影響することはこれまでお伝えした通りですが、これらがどのように影響し、トラブルが起きやすい環境にしてしまうのかをもう少し具体的に考えてみましょう。

 

 「文化の壁」や2種類の「英語の障害」が影響し、自分の仕事相手が自分のことを「理解できていない」、また自分がその人のことを「理解していない」状況では、この2人の関係は常に緊張した状態になります。自分が緊張していることを実際に感じる場合もあれば、自分では気づかないままそうなってしまうこともあります。お互いに相手のことが「理解できない」状態ですと、いくら相手の仕事上の分担や役割を理解していたとしても、打ち解けにくい関係になってしまいます。

 

 もちろん、これはあくまでもビジネスです。活動の目的は仕事相手と友達になることではなく、仕事を進展させることです。たとえ緊張した環境においても、お互いの役割が明確であれば、仕事は進むでしょう。少なくともしばらくの間は…。しかし、お互いに打ち解けあえず、緊張した環境で仕事を行う状態が続けば、どんな人でも知らないうちにストレスが溜まってしまいます。ストレスが溜まれば、精神状態にも影響を及ぼすことは言うまでもありません。ストレスが溜り、不安定な精神状態になった人が集まって仕事をする環境が続けば、いつどのような問題が生じてもおかしくありません。(逆に何も問題が起きないほうが不思議です。)

 

 仕事の環境や仕事相手との関係が不安定な場合、人は自然に自分を守るための防衛機制(ディフェンス・メカニズム)を働かせ、無意識のうちに自分と接する人たちのことを警戒するようになります。これは人と人との関係でも、組織同士の関係でも同じことが言えます。

 

 こういう状況では、たとえビジネスにおいてお互いの進みたい方向が一致しており、達成したいゴールを共有できていても、物事を上手く進展させることはできません。また、たとえ英語を使ってコミュニケーションがとれたとしても、お互いを「理解していない」状態である以上、相手に対する警戒心や不信感を解消することはできません。繰り返しますが、こうした感情は意図的ではなく、自分では気づかないうちに抱いてしまうものです。

 

 海外の企業や人たちと行う仕事とその環境は、不信感と警戒心に満ちた環境です。もちろんビジネスの世界ですので、ほとんどの人がこうした気持ちを表に出すことをせず、「business as usual」を装いながら仕事を進めようとするでしょうが、不信感と警戒心が存在することを忘れてはなりません。この現実から目をそらすことは、大きな問題を招き入れることにつながります。

 

 今のあなたの仕事相手との関係に、上に述べた不信感や警戒心はどれくらい存在しているでしょうか。こうした感情が知らず知らずのうちに、仕事の進展を邪魔していませんか?

 

 

4.5. まとめ

 

 この章では、読者のみなさんに、現在自分が身を置いている仕事環境について色々な質問や問いかけをしました。その目的は、これまで紹介しました「文化の壁」と2種類の「英語の障害」がもたらすコミュニケーションの問題の影響が、今海外のパートナーと行っている仕事において、どのくらい含まれているかを改めて確認・把握して頂くためでした。

 

 ここまで読み終えて、この章のタイトルにありますように、「問題をカスタマイズ」ことができたでしょうか? 日々の仕事においてコミュニケーションをとっている海外のカウンターパートとの間に潜んでいるかもしれない問題やリスクを洗い出し、整理することができたでしょうか?

 

 海外の企業や人々と連携・協力して進める事業やプロジェクトにおいては、行う活動の規模の大小を問わず、「文化の壁」、「ネイティブ英語の障害」、そして「外国英語の障害」が例外なく存在します。また、これらの要素は、ただ存在するだけでなく、円滑なコミュニケーションを阻害する要因を作り出します。

 

 海外を相手にした仕事を円滑に進めるには、これらの障害が原因で生じる不信感や警戒心を可能な限り解消していかなければなりません。自分の文化や習慣とは異なるものを持つ人や組織、企業を相手に活動を展開する環境では、相手に対して警戒心を抱くのは当たり前です。しかし、こうした警戒心や不信感を抱いたままの状態では、仕事の進捗に悪影響を及ぼし、問題が起こりやすい環境なってしまうのも十分理解できることです。

 

 海の向こうのパートナーとのビジネスリレーションシップを構築していくうえで、相手が抱く不信感や警戒心を解いていくには、どんな方法があるでしょうか。そして、良好な関係を築きながら与えられた任務を遂行していくには、どんな手段があるのでしょうか。次の第5章からは、これまでにご紹介しました内容を踏まえ、海外の仕事相手と効果的に仕事を進めていくために行うコミュニケーションの手段をご紹介していきます。

 

 

 

<<前に戻る               次に進む>>

 

   

 

                サイトの利用条件    個人情報の扱いについて