第3章 英語で行う会話の本質 【3/5】

国際ビジネスで使われる英語とは、どのようなものなのか

 

 仕事においてコミュニケーションをとる人が英語を母国語とする人(ネイティブスピーカー)である場合、先方から発信されるメッセージの中には通常のビジネス英語以外のスタイルを用いた表現、つまり英語の「奥深い」部分が見え隠れすることがあります。それを理解できた場合とできない場合では、伝えられた内容にばらつきが出てしまいます。

 

 「ネイティブ英語の障害」を克服するためには、英語の奥深さをしっかりと理解できるようになる、つまり英語のスキルがネイティブスピーカーと同じレベルにならなければなりません。しかし我々ノン・ネイティブスピーカーがこの条件をクリアするのは、ほとんど不可能だと言ってよいでしょう。もちろん、世の中には類いまれな語学的才能を持ち、英語の「奥深さ」もしっかり理解できてしまうノン・ネイティブスピーカーもいるかもしれません。しかし残念ながら、そういうケースは大変稀なケースです。このような才能を持っていない(私を含めた)大多数の人々とっては、「ネイティブ英語の障害」はやはりコミュニケーションを妨げる原因となって存在し続けることになります。

 

 

3.3. 英語という名の道具

 

 次に考えるのは、「ネイティブ英語の障害」とは正反対の位置にある、「外国英語の障害」というコミュニケーションの障害です。これは英語が国際語として世界各国の人々に使われるからこそ、生じる問題です。

 

 「ネイティブ英語の障害」は、英語の「奥深さ」の影響で英語を母国語とする人たちが使う英語を完全に理解できず、コミュニケーションがうまくとれなることと説明しました。これは主にネイティブスピーカーとノン・ネイティブスピーカーとの間、つまり英語を母国語とする人々と英語が母国語でない人々との間で起こる問題です。情報の流れは、ネイティブスピーカーからノン・ネイティブスピーカーとなります。

 

 この流れが逆になった場合、伝えられる英語はどのように変わるでしょうか。

 

 基本的に、ノン・ネイティブスピーカーから発信される情報は、ネイティブスピーカーの英語のよりも「奥深さ」がありません。先ほども少し考えましたが、英語が母国語でない人たちの中にも、ネイティブ顔負けの表現の仕方をマスターした人たちもいます。しかしそういう人は、やはり少数派です。英語で生まれ育った人たちでなないのですから、ネイティブスピーカーと比べて表現の幅が狭くなるのは当たり前です。大多数のノン・ネイティブスピーカーは英語を表現方法に満ち溢れた豊かな言葉としてではなく、「情報伝達のための道具」として扱います。

 

 道具化された英語は飾り気がなくシンプルになり、表現が直接的になります。しかしこの「英語の道具化」がここでご紹介する「外国英語の障害」となるものではありません。むしろシンプルなスタイルは、情報を伝達し、意思の疎通を図るうえでは非常に効果的であると言えます。ネイティブスピーカーにしてみれば、ずっとこういったシンプルなスタイルの英語に接していると、会話が味気なく思うことがあるかもしれませんが、コミュニケーションをとる上で問題は生じません。

 

 上を踏まえ、では「外国英語の障害」とはいったいどのようなものなのかをこの次に考えていきたいと思います。

 

 

3.4. 「外国英語の障害」が引き起こす問題

 

 「外国英語の障害」について考える前に、「外国英語」とはいったい何を意味するのかを検討してみましょう。

 

 「外国英語」とは、英語が母国語でない人たち、ノン・ネイティブスピーカーによって生み出されるものです。使われる言語は一応英語なのですが、情報の構成のされ方や物事の表現のされ方などが、自身の母国語の形に強く影響された英語をいいます。「外国英語」の最も極端な形は、自国の言葉をそのまま英語に直訳した、もしくはそれに近い形になっているものとなります。

 

 このようにして作成され発信された「外国英語」は、その情報を受け取った人が発信者の母国語やビジネス文化が分かっていなければ、理解することができません。「外国英語」で構成された情報が理解できないことから発生するコミュニケーションの問題を、「外国英語の障害」といいます。(大変興味深いことに、外国英語は、発信者と同じ言語や文化をシェアする人たちの中では、大変分かりやすい英語として受け取られる特性を持っています。)

 

 どこの国の言葉にも、その国の文化や生活習慣が状況に応じた独特の言い回しや、表現方法が存在します。このような独自の表現は、その国の言葉を理解していないと理解できないケースが多くあります。例えば日本語で、「これはこれ、それはそれ。」という表現があります。これは、二つの事柄を1つにしないで別々に扱うことを促す、または別であることを伝えるときに、使われることが多い表現です。日本人ならば、その場にいたらどういうことかすぐに分かります。しかしこれをそのまま英語に変換し、「This is this, but it is it.」と訳しても、情報を受け取る海外の仕事相手にしてみれば、何のことなのかさっぱり分かりません。

 

 英語であることは間違いないのですが、内容がよく理解できない、そしてそのために意思の疎通が思うように行かず、誤解を生んでしまう。このように発生する問題が「外国英語の障害」になります。なぜ「外国英語の障害」が発生するのかは、第2章で述べた「文化の壁」が大きく影響していることはお分かりいただけるのではないかと思います。「外国英語の障害」は、「文化の壁」が原因で生じる問題と同様に、常に注意していないとすぐに表面化してしまいます。

 

 

  

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