第8章 英語で仕事を進展させる 【1/4】

いくら英語ができても、仕事が進まなければ意味がない…

 

  

8.1. 円滑なコミュニケーションのために (これまでのおさらい)

 

 海外の人を相手に進める仕事では、コミュニケーションをとること自体に仕事の進展をストップさせてしまうリスクがあります。このリスクは、扱われる情報の内容が重要か否かは関係なく起こるので、大変厄介です。

 

 リスクが存在する理由の一つは、コミュニケーションをとる際に使用する言語にあります。英語は我々日本人にとって外国語であり、母国語のように自由に操ることができない言葉です。英語のコミュニケーションにおいて常に存在する「ネイティブ英語の障害」や「外国英語の障害」が、仕事を進めるために必要な「情報の提供と収集」作業を不確実なものにしてしまいます。

 

 コミュニケーションをとることがリスクになってしまうもう一つの理由は、一緒に仕事を進めるパートナーが、共通の「当たり前」を持たない文化や習慣が異なる人たちだからです。「文化の壁」がもたらす障害は、相手のことを理解するキャパシティーを狭めてしまいます。お互いに相手のことを理解しにくくしてしまう仕事環境が、警戒心や不信感を抱く行為につながり、ビジネスリレーションシップの構築を大きく阻害してしまいます。

 

 「文化の壁」と上手く付き合っていくには、お互いが相手のことを今よりも理解するようにしていくしかありません。ビジネスコミュニケーションを進める上で、文化や習慣が違うパートナーの警戒心を解いていくことが必要となります。それを行うのに最も効果的な手段は、自分が相手にとって「予測可能な存在」になることです。第5章では、セルフ・ポジショニングを構築するコンセプト紹介し、自らが相手にとって「予測可能な存在」になるためにとる様々な手立てをお伝えしました。

 

 「情報の提供と収集」作業の不確実さを解消するための手段として、第6章では伝えたい情報を確実に相手に伝える手段について考えました。情報を発信する前に行う事前準備やシナリオ作り、そして情報を構成するときに使える6つのルールを紹介しました。そして第7章では、海外のカウンターパートから伝えられた情報を確実に理解する手段について考えました。分からない情報を自分自身で解釈する危険性をお伝えした上で、確認のための3つの質問パターンを紹介しました。

 

 第5章から第7章で紹介しました海外のカウンターパートとのコミュニケーション方法は、先方との効果的なビジネスリレーションシップの構築と「情報の提供と収集」作業の精度を上げるためには、なくてはならないノウハウです。自分の仕事を目標に向けて確実に前に進めるには、こうした手段をしっかりと使いこなせるようにすることが大切です。

  

 

8.2. 仕事を進展させること

   

 それでは、ここで一度視点を変えてみたいと思います。

 

 これまでは海外の仕事相手とのコミュニケーションの質を上げること、つまり「仕事英語を身につける」ことを目的として話を進めてきました。「仕事英語を身につける」ことは、海外との仕事を進展させるために必要不可欠なのはここで改めてお伝えしなくてもよいと信じます。「仕事英語を身につける」ことは、「仕事を進展させる」ことに100%寄与する関係にあります。

 

 では、今度は「仕事を進展させる」ことをベースにして「仕事英語を身につける」意味を考えてみると、この2つの事柄の関係はどうなるでしょうか。コミュニケーションの質を上げ、「仕事英語を身につける」ことができていれば、「仕事を進展させる」ことができるのでしょうか?

 

 この質問に対し「Yes」と答えてしまえば全ては丸く収まるのでしょうが、現実的に考えますと、これは必ずしもそうであるとは言えません。 もちろん正確な情報のやり取りを行えるようになることは、仕事を進めるためには必要不可欠です。しかしその一方で、効果的なコミュニケーションさえとれていれば仕事は問題なく進展するとは、必ずしも言えないのも事実だと思います。

 

 例えば、自分が行う仕事やプロジェクトにおいて設定された目標の妥当性(期待している効果が得られるように目標が設定されているか?)に問題があれば、いくら頑張って仕事を進めても成果が出ません。この他にも、達成すべき仕事内容とそれを担当する人のスキルのマッチング(能力適正)の妥当性や、関連部署との連携体制(役割分担と責任の所在の明確化)の在り方、そして使用可能な予算の妥当性などは、「仕事を進展させる」上で大きな影響があります。これらがしっかりと整っていなければ、仕事は前に進まないでしょう。この他にもこのような事業運営管理(Project Management)に関連した事柄で、仕事の進捗に大きなインパクトを与える要素は存在します。

 

 このような事業運営管理のされ方が影響して生じる問題の特徴は、普段行う仕事の中では、これらが発生するのを防止すること、そして生じてしまった問題を解決することがほとんどできないことです。いくら自分が担当する職務を順調に進めていても、それとは関係なくこうした問題は発生し、仕事の進捗を阻みます。 これまでの仕事経験の中で、上のようなプロジェクトマネージメントに関連した問題によって進めていた仕事が頓挫してしまった、あるいはそれと似た被害を被った経験がある人は、読者の中にもたくさんいるのではないでしょうか。

 

 

  

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