第10章 次のステップへ 【1/4】

仕事英語が身につくと、グローバリゼーションの本質が見える

 

10.1. 現在地の確認

   

 この本で紹介した内容は、英語で行うビジネスコミュニケーションの質を上げるために必要な知識、手段、そして心構えです。ここで紹介したこと以外にも行えることや、とることができる手段は数多くありますが、少なくともこれだけは必要だと思うものを紹介しました。この本は、国際化が進み、英語がますます必要となるビジネス環境において、海外のカウンターパートとの仕事を効果的に進める上で最低限必要な事柄をまとめた本、という位置づけになります。

 

 ここで紹介した内容を理解して仕事の中で活用できるようになった方は、ビジネスコミュニケーションの質を上げるために必要なスキルの核(コア)となる部分が身についたことになります。このコアを作ることが、これから本当の意味で「仕事英語を身につける」ための最初のステップとなるのです。

 

 従いまして、今はまだ、「仕事英語を身につける」プロセスの途中であると認識して頂ければよいと思います。これがこの本をここまで読み終えた時点での、現在地となります。この本一冊で全てが完結しないことを、ご理解ください。

 

 ここからは、次のステップに進んでいくことになります。次のステップとは、この本の内容を基に築いたコアを発展させることが目標になります。このステップでは、一人一人が自分に最も合うスタイルを見つけると同時に、そのスタイルがビジネスコミュニケーションにおいて効果を発揮するようになることを目標にしなければなりません。予めお伝えしておきますが、このステップにおいては特に決まった手順やマニュアルは存在しません。自分に合ったスタイルを見つけられるのは、自分以外には誰もいません。第三者に教えられて得られるものではないのです。

 

 コアを発展させるために行う英語スタイルを確立と、効果的なコミュニケーションの実現とを両立させることは、簡単にクリアできるステップではありません。長い時間がかかるかもしれませんが、焦らずに取り組んでいきましょう。このプロセスは科学ではありませんが、クリアするためには科学の実験のように色々なスタイルを試し、「トライアル・アンド・エラー」(試行錯誤)を積み重ねながら、自分にしっくりくるスタイルを見つけることが一番の近道になると思います。失敗を恐れず色々試してみることが、最大のアドバイスとなります。時には行うこと全てが上手くいくと思うときもあるでしょうし、反対に何をやってもダメと思うときもあるでしょう。どんな状況になったとしても、この本で培ったコアの部分は、常に有効であり続けます。進む道は平たんではないですが、立ち止まることなく、諦めることなく、前に進んでいくことが大事です。

   

 

10.2. 矛盾したメッセージ?

 

 前の章(第9章)の最後では、英語の技術的な部分の知識や理解度を深めること(Hard Skillを身につけること)と、文化や習慣が異なる人たちとコミュニケーションをとる際に必要な知識や心構えについての理解度を深めること(Soft Skillを身につけること)を両立することが「仕事英語を身につける極意」であるとお伝えしました。

 

 しかしその一方で、第3章では、英語という言語は我々が通常のビジネスで扱う英語の領域よりもっと「奥深い」言葉であることを何度もお伝えしえしました。そしてネイティブスピーカーでない我々には、この言語を完全に理解することは難しいとお伝えしました。また、第2章では、自分のものとは異なる文化や習慣をマスターすることは至難の業であると、そして不可能であるともお伝えしました。

 

 上に挙げた内容をまとめると、この本は、「立ち止まることなく、諦めることなく」理解を深めていくように奨励しているHard SkillとSoft Skillに対して、それらをマスターするはできないと、声を大にして言っていることになります。これについて、どう思いますか? 矛盾したことを言っていると思いますか? 対象となるものが英語にしても、異文化にしても、決してマスターできないことに対して理解を深め続けるように(つまりマスターすることを目指しアクションをとり続けるように)言われているのですから、矛盾していると思うのは当然かもしれません。これを別の状況に例えるならば、目的地が存在しないのにもかかわらず、そこに向かって進み続けるよう勧めているのと同じになります。

 

 もちろん読者を騙したり、実現するのが不可能なタスクを強いたりするためにこの本を書いたのではありません。この本の目的はただ一つです。英語を使う仕事で苦労しているビジネスマン・ビジネスウーマンに向けて、ビジネス英語を今よりもスムースに活用するための手段やノウハウを提供することです。

  

 海外の人々を相手に日々の仕事を進展させるには、英語のスキルを進歩させることと、異なる文化・習慣に対する理解を深めることが必要であるのは、既に理解して頂けたと思います。英語が使えなければコミュニケーションをとれませんし、相手の文化や習慣に対する理解がなければ、ビジネスリレーションシップを構築することができません。この2つは、海外の企業や人々と仕事をするためには、間違いなく必要です。しかし、同時にこれらの2項目は、決して完全にマスターできないものであるのも既に理解して頂けたと思います。英語を母国語としない我々にとって英語の「奥深さ」を全て理解するのは困難ですし、他の国や地域の文化、「生活様式の総体」を完全に理解するのは不可能です。

 

 

  

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