これらについて、我々はどのように理解すればよいのでしょうか? 矛盾しているとされる項目の1つ1つを切り離して考えればそれぞれ理解できるけれど、それらを1つにつなげてしまうと、矛盾したことになってしまいます。
この問題に対して何らかの決着を見るには、どうやら今の思考プロセスを転換させる必要があるようです。矛盾することは事実でないと考えるのを改めて、矛盾していても事実として成り立つとして考えたらどうでしょうか?
これまでは、我々が日々関わりを持っている国際化されたビジネス環境には矛盾は存在してはいけない、だから矛盾があることはおかしいと考えていました。でもそうすると、答えを導き出すことはできません。では発想を転換して、現実の環境においても矛盾は存在してもよいとすると、どうなるでしょうか。現実の国際化されたビジネス環境にも矛盾することがあったとしてもよいとする、と仮定して考えてみましょう。(この考え方の変化をもう少し平たく解釈をしますと、現実の世の中には矛盾は存在しない、またはそうなることを受け入れないというスタンスから、矛盾することもあるし、それを受け入れるスタンスに変えることになります。)
上で行った発想の転換によって得た新しいスタンスを基に、海外の企業や人々と英語を使って仕事をすることは何を意味するかをまとめると、次のようになります。
「国際化されたビジネス環境で日々働く人は、必然的にHard Skill と
Soft Skillの理解を深めるという、完結することのないタスクに対し、
それらを完結するべくアクションをとり続けなければならない環境に
身を置くことになる。」
上に示したビジネス環境は、実際に我々が生活する世界で存在するものを忠実に表現しているのではないでしょうか。つまり矛盾しているように見えますが、事実なのです。これを受け入れますと、ここでお伝えしている矛盾した状態とは、この本によって作られたのではなく、現実の国際化されたビジネス環境の一部だということになります。繰り返しますが、こうしたビジネス環境は、実際に我々が生活する世界で存在するものです。矛盾しているからおかしいと考えるのではなく、矛盾するからこそ現実味があるとお考え頂ければよいと思います。
また、こうした環境に身を置いているのは、我々日本人だけではないことも認識しておく必要があります。国際化されたビジネスの環境が矛盾した状況を作り出している原因なのですから、誰もが自分から見て「海外」となる企業や人々を相手に仕事をしている全世界のビジネスマン・ビジネスウーマンも、同じような状態にいることになります。これらの人々も皆同じように「矛盾した」環境に身を置いています。そして我々と同じようにビジネスコミュニケーションの質を高めるために、Hard SkillとSoft Skillを磨いているのです。
【注】英語を母国語とするビジネスマン・ビジネスウーマンは、英語の
スキルが既にある訳ですから、これに当てはまらないと思われる
かもしれません。でも、決してそうではありません。確かに英語と
いう言語のスキルについては、我々ノン・ネイティブスピーカーの
ように苦労しなくてもよいでしょう。しかし異なる文化や習慣に対
する理解を深める点では、我々と同じか、それ以上に大変かもし
れません。コミュニケーションで使われる言語が自分の母国語で
あるがゆえに、異なる文化や習慣を理解・認識する感度が鈍くな
ってしまうからです。彼らもやはり、我々と同じ環境に居るので
す。近年の新興国経済の発展により、これまであまり付き合うこ
とのなかった文化を持った人たちと関わる頻度が増えています
が、これは英語を母国語とする人々にとって、とてつもないチャレ
ンジになっていることは間違いありません。
とは言うものの、やはり自分の母国語が国際語として使えると
いうのは、アドバンテージであることは間違いないでしょう。歴史
を振り返ってみると、国際語とされた言語は時代を通して変化し
てきました。ポルトガル語やスペイン語、そしてフランス語が国際
語とされた時代もありました。(もちろんこれらの時代の世界に
は、日本を含めたアジア諸国は含まれていませんでしたが…。)
そして今は英語がその役割を果たしています。我々は、今のこの
時代に存在している以上、国をまたいだコミュニケーションをとる
場合は、英語を使うことを求められるのが多くなるのは逆らえな
いものです。
10.3. グローバリゼーションの本当の姿
海外の企業や人々を相手に仕事を展開されているみなさんは、ビジネスの国際化、グローパリゼーションの真っただ中にいることになります。
ビジネスにおいて国際化を進める理由、企業が国際化で目指す理由は非常に明確です。これについてはこの本の最初の章でもこれについて少し触れましたが、その理由をまとめるとすると、次のようになります。
どんな企業でも、企業として存続する以上、継続的に成長し続けなければならない宿命を持っています。(継続して成長できない企業は、存続することができません。)ですから企業というものは、宿命的に常に市場機会の拡大と組織内オペレーションの効率化を現状で可能な限り最大化することを常に目指して活動しなければならない存在なのです。
自身の成長と効率化のために行う活動については、数十年前までは主に外国で事業を展開する際に邪魔になる様々な規制のお蔭で、国境の内側で行うことが理にかなっていました。しかし今では、そうした規制はどんどんなくなる方向に進んでいることから、国境という垣根にさえぎられることなく活動が展開できるようになっています。その結果としてビジネスの国際化、グローバリゼーションが進んでいるのです。