第6章 仕事英語を身につける 1 【4/8】

情報を確実に相手に伝える手段

 

  しかし、これがよく知った者同士(例えば同じ部署の同僚)とのコミュニケーションとなりますと、同じキャッチボールでもグローブではなく大きなかごを使って行うようになります。大きなかごを使えば、一度にたくさんのボールをキャッチできますので、コミュニケーションのスピードは速くなります。その反面、かごを持って走り回ることはできませんので守備範囲はせまくなるという欠点があるのも事実です。しかしこれもよく知った人とコミュニケーションをとるのであれば、問題ありません。なぜなら相手のことがよく分かっているということは、相手が投げるボールがどこに飛んでくるかが分かるということになるからです。

 

 もちろん、これと同様のことを海外の人とコミュニケーションをとることができればそれに越したことはないのですが、そうは上手くいきません。相手のことをよく知らないということは、その人が投げるボールがどこに飛んでくるかもよく分からないことになります。そうなると守備範囲を広くする必要があるようになり、必然的にかごではなく、よく動き回ることができるグローブを使わなければならなくなります。

 

 本題に入る前の前置きや、ことの背景などの説明を付け加えすぎると、一度に伝える情報量が多くなり、一番伝えたい情報がその中に埋もれてしまうことがありますので注意が必要です。一度のコミュニケーションで多くを伝えるのではなく、情報量を少なくしてコミュニケーションの頻度を増やすことを心がけるようにすると、発信する情報が伝わりやすくなるだけでなく、相手と接する頻度が上がる分、前章で紹介しましたセルフ・ポジショニングも築きやすくなります。

 

ルール2:コミュニケーションをとっている理由(目的)を最初に伝える

 

 よく知らない相手から連絡が来ると、誰でも無意識のうちに緊張し身構えてしまうものです。このような状態で情報を受け取ると、見落としや誤認識をする頻度が多くなり、情報が伝わりにくくなってしまいます。ですから、まずはじめになぜ自分が連絡しているのかを最初に伝え、こうした阻害要因を取り除いていくことが重要です。例えば、先方が販売している製品(下の文例ではコピー機)の仕様について質問する場合は、

 

   Dear Mr. XXXX,

 

   I have a few questions on the product specifications of your

   copy machine.

 

と最初に要件を伝えれば、連絡をしている自分の意図が相手にも明確になります。また下のように、全く同じ内容を質問形式にして伝えることもできます。

 

   Dear Mr. XXXX,

 

   Could you please clarify a few questions I have on your copy   

   machine specifications?

 

 面識があまりない相手に対して連絡する方法として、Eメールの場合は「I am sending this email to (askやprovideなどの動詞が続く)…」、電話などで直接話す場合は「I am calling to(find outやunderstandなどの動詞が続く)…」の形式を使って意図を伝える文章でスタートすると、より明確になります。例えば、面識のない相手から要求された資料を提供するために連絡する際は、

 

   Dear Ms. YYYY,

 

   I am sending this email to provide you with materials you have

   requested.

 

 といった形で文書をスタートすると、目的が効果的に相手に伝わりやすくなります。ここに挙げた3つのパターンはビジネスの場で比較的頻繁に使われるものですが、連絡する目的を伝えるスタイルは、もちろんこれだけではありません。コミュニケーションを取る相手や内容に応じ、一番伝わりやすい表現を使用することが大切です。

 

ルール3:伝える内容を限りなくシンプルにする

 

 伝えたい情報をいかにして相手に分かりやすくするかを考えていきますと、相手に伝える内容をどれだけシンプルにできるかにかかっていると言えるでしょう。これは海外のカウンターパートに対してだけでなく、コミュニケーションをとること全般に言えることです。

 

伝える内容をシンプルにするとは、単に短い言葉で伝えるということではありません。また、難しい言葉や表現を分かりやすい形に変えることだけでもありません。では「シンプルな表現」とは、この他にどのような要素があるのでしょうか。海外の人たちを相手にしたビジネスコミュニケーションで考えますと、「シンプルな表現」とは以下の通りになると思います。

 

  ■ 伝える事柄が整理されていて理解しやすい。

  ■ 伝える順序が論理的で、ついていきやすい。

  ■ 結論もしくは一番伝えたい事柄が何であるかはっきり分かる。

  ■ 直接的な表現を使い、誤解を招かないようにしている。

 

 最初の2点は、6.2でご紹介しました事前準備とシナリオ作りのプロセスを行うことによって、実現できるようになります。3つ目のポイントは、上のルール2でご紹介しました手段を使うことで、実現できます。

 

 この4つの中で、一番わかりにくいのは最後の「直接的な表現を使う」ことではないでしょうか。直接的な表現とは、例えばA、B、Cの3つの中から1つを選ぶとします。選ぶものがBとして、それを直接的な表現で伝えると、「Bを選ぶ」と表現します。これとは反対に間接的な表現を使うと、「AとCは選ばない」という言い方になります。両方とも同じことを言っているのですが、直接的な表現で「Bを選ぶ」と言ったほうが間違いなく伝わります。なぜなら直接的な表現は、誤解を生む余地を与えないからです。

 

 【注】我々の母国語である日本語は、どちらかというと間接的な表現を

    用いることが多い言語ですので、注意する必要があります。

    (我々日本人が気を付けなければならない事柄については、ル

    ール5でさらに考えていきます。)

 

 上の4つの条件を限りなく満たすことによって「シンプルな表現」が実現されていきます。海外のカウンターパートに情報を伝える際は、これらを念頭に情報の構成をしていきましょう。

 

 

  

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