第6章 仕事英語を身につける 1 【3/8】

情報を確実に相手に伝える手段

 

 シナリオ作りの3つ目の利点は、これから相手に伝える情報の構成の仕方、伝え方がより明確になることです。情報を伝える人にとっては、相手からの返答が自分が想定する最も良いシナリオであることが望ましいと思うのは当然です。シナリオ作りをすることで、よりベストなシナリオに導くような伝え方を(少なくとも悪いシナリオにならないような伝え方を)検討することができるようになります。

 

 では、上のいろは株式会社とXYZ Corporationのケースを使ってシナリオを考えてみましょう。XYZ Corporationからの返答で考えられるシナリオは、大きく分けて以下の通りになります。

 

  A) 返答が返ってこない。

  B) こちらからの要求を受け、リードタイムの短縮に合意してくれる。

  C) 柔軟な姿勢をみせるが明確な返答がない、もしくはこちらの希望

    とマッチしない提案をしてくる。

  D) 価格や品質基準の変更など、他の設定条件を変更すればでき

    る、と返答してくる。

  E) リードタイム対する交渉はいかなる理由でも一切受け付けない、

    と返答してくる。

 

 上の5つのシナリオの中で、最も良いシナリオはBです。反対にEは、非常によくないシナリオとなるでしょう。シナリオCとDは、比較的現実的なシナリオということになるでしょうか。シナリオAは返答が返ってこない訳ですから、これは最悪いシナリオです。Aのケースは先方が何らかの理由で意図的に返答してこないこともあるかもしれませんし、担当者が出張などで不在のため返答ができない場合もあるでしょう。このシナリオの防止については、情報を発信する際、李さん以外のXYZ Corporationの関係者(例えば李さんの上司)や自分の部署の上司をCC:リストに加え、自分が伝える情報を「オフィシャル化」するなどして、先方が返答しなければならない環境を作るべく事前に手を打つことが大切です。

 

 シナリオBからEに対しては、それらが現実になった場合の次の手立てを予め考えておきます。

 

 上に挙げたもの以外にも、シナリオは考えられるかもしれません。しかしあまり多くを考えることはお勧めしませんし、その必要もありません。現時点で考えられる返答の中で、代表的と思われるものを考えれば十分です。あまりマニアックになる必要はありません。この活動の本来の目的は、仕事をスムースに進展させることであって、シナリオをたくさん作ることではないのですから。また、コミュニケーションをとる相手に対する理解度が増していけば、考えられるシナリオの数は自然に減っていきます。究極の形は、考えられるシナリオが1つしかなくなること、つまりシナリオ作りをする必要がなくなることです。考えられるシナリオが多ければ多いほど、相手のことが理解できてないことになります。従ってこの作業に時間を費やし、たくさんのシナリオを作らなければならないということは、相手との人間関係が構築できていないことをさらけ出していることになります。

 

 シナリオ作りをしなくてもよくなるのは、簡単に実現できることではありません。少しでも検討する必要があるシナリオの数が少なくすることができるように、着実に海外のカウンターパートとのビジネスリレーションシップを築き上げていくことが大切です。

 

 事前準備(情報の整理とシナリオ作り)が終了したら、いよいよ相手に対し情報を発信します。相手に伝えたいことを確実に伝えるようにするにはどういったことに気を付ければよいのかを、いくつかの例を交えながらこれからじっくり考えていきましょう。

 

 

6.3. 情報を確実に伝える6つのルール

 

 我々日本人がビジネスにおいて、海外の文化や習慣が異なる相手とコミュニケーションをとる際に注意しなければならない事柄については、これまでも何度もお伝えしてきました。第2章で紹介した「文化の壁」が起こす問題では、我々が普段当たり前だと思っていることは、違う文化を持つ人々には必ずしも当てはまらないことを説明しました。第3章では「外国英語の障害」について、つまり自分の母国語で使われる表現や言い回し、そして文章形式などをそのまま英語にして用いることは、情報の伝達を難しいものにしてしまうことについてお話ししました。この他にも、コミュニケーションをとる相手が海外の人であるがためにこそ抱いてしまう不信感や警戒心(第4章)についても考えていきました。

 

 英語を使って海外のカウンターパートに情報を伝える作業を行うときは、こうした注意点やリスクを十分考慮したうえで行わなければなりません。なぜならこれらの「グローバルコミュニケーションの障害物」に対し丁寧に対応していくことが、結果として仕事を一番早く効率的に進めることにつながるからです。

 

 では、これから具体的に何をすればよいかを考えていきましょう。海外のカウンターパートに対し情報を効果的に伝えるための6つのルールをご紹介していきます。まずそれぞれのルールの意味や中身を説明した後、実際にこれらのルールに沿った文書を作成していきます。

 

ルール1:伝えたいことだけを伝える

 

 海外の人とコミュニケーションをとることは、野球のキャッチボールと似ています。相手は、情報と受け取るためにグローブをはめています。グローブをはめている限りは、その人が一度に取ることができるボールは1つです。コミュニケーションにおいても、一度に伝える事柄の数は1つ、もしくは必要最小限に抑えることが重要となります。 

 

  

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