第5章 セルフ・ポジショニング 【3/8】

予測可能な存在になることのすすめ

  

 そんな些細なことが人間関係を深めるきっかけになるのか、と思う方もいるでしょう。人間は本能的に不安定な状態に直面した際、早く安定した状態に自分をもっていこうとすることはよく知られた事実です。我々は今の環境が不安定であればあるほど、安定化させるための手がかりを探そうとしますし、何かきっかけを見つければそれをすぐに活用しようとします。何度もお伝えしていますとおり、海外の人とビジネスリレーションンシップというものは不安定極まりないものです。セルフ・ポジショニングを築くことは、この状況を安定した環境に導くきっかけを与える大変有効な手段なのです。

 

 それでは、もう少し具体的にどのようにしてセルフ・ポジショニングを確立したらよいかを考えていきましょう。

 

 【注】勤務地が日本の場合、海外の仕事相手とのコミュニケーション

    は、直接会ったり、電話やテレビ会議などで直接話をしたりする

    よりも、Eメールなどを使用した文書のやり取りのほうが頻度の高

    くなります。これは主に物理的な距離が離れていることと、それ

    に伴う時差の影響でそうなります。セルフ・ポジショニングは、直

    接相手に話をすることでも、文書を作成して伝えることでも確立

    することができますが、この本では主に、文書の作成によるセル

    フ・ポジショニングの確立について考えていきます。(このように

    書物という、文章の集まりを構成してお話を進めている立場上、

    そのほうが説明しやすいということもご理解頂ければありがたい

    です。)

 

 

5.3. 英語のスタイルとセルフ・ポジショニング

 

 英語を使うビジネスの環境において、一般的によく活用される情報伝達スタイルは、大きく分けて3つあります。それぞれのスタイルの主な利点と欠点も合わせてまとめましたので、下を確認ください。

 

  ① フォーマルなスタイル

     概要:丁寧な言葉づかいを用い、一般的な「ビジネスマナー」に

         則したスタイル。学校で習う正しい文法や表現を使う。ス

         ラングなどはほとんど使わない。

 

     利点:丁寧で礼儀正しい。すべての人に受け入れられる。どの

         状況でも使える。

 

     欠点:フォーマルなスタイルであるがゆえに、コミュニケーション

         をとる相手との関係が、縮まりにくい。表現が回りくどくな

         り、伝えたいことが伝わりにくくなるリスクがある。伝える

         文章が長くなりがち。 堅苦しい。

 

  ② インフォーマルなスタイル

     概要:日常の会話で用いられる言葉づかいを文章化したスタイ

         ル。慣用句やスラングなどの学校では習わない表現も活  

         用する。正式な文書などには使われることはない。

 

     利点:親近感を持ちやすい。このスタイルの活用が功を奏せ

         ば、仕事相手との人間関係を深化させることが可能。意

         思の疎通がしやすくなり、コミュニケーションのスピードも

         速くなる。

 

     欠点:初対面の人や面識があまりない人に使用すると誤解を

         招きやすい(失礼だと思われる)。相手の意見・立場に同

         調しやすいが、反対する、異論を唱えるといった行為はと

         りにくい。(「仲良しクラブ」的な人間関係になってしまうリ

         スクがある。)

 

  ③ 単刀直入なスタイル

     概要:あいさつやご機嫌伺いなどは省略し、要点のみを伝え

         る。正しい文章構成にすることや、文法上のルールなど

         あまり気にしない。

 

     利点:伝えたい情報が間違いなく伝わりやすい。効率的。

 

     欠点:仕事相手との人間関係が深まりにくい。ドライで近寄り難

         いイメージを与える。

 

 これらのスタイルがどういうものなのかを言葉を使って色々と説明するよりも、実際にみたほうが分かりやすいと思いますので、全く同じ内容の文書を上の3つのスタイルを使って表してみましょう。

 

  状況設定

  購入を検討している製品の見積書が送られてきた。その内容を確

  認した結果、先方に対し、以下の2点について確認・依頼する必要

  がある。

 

   A) 提示された見積価格は、製品の付属品3品(A、B、C)も含まれ

     ているか否かがはっきりしないので確かめたい。

 

   B) なるべく早く結論を出したいので、明日の日本時間の午後6時

     までに回答がほしい。もし明日の6時までに回答するのが無理

     ならば、いつ回答してもらえるかを教えてほしい。

 

  送り先:Peter Smith (ピーター スミス)

  差出人:山田 太郎 (やまだ たろう)

 

  

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