第10章 次のステップへ 【3/4】

仕事英語が身につくと、グローバリゼーションの本質が見える

  

 

 継続的な成長を目指すために、企業は国内外の企業と提携を結んだり、事業委託をしたり、共同開発を進めたりするなど、必要と思われる活動を世界規模で展開します。ビジネスが国際化される理由、企業がその活動を国際化させる理由は、このようにとてもシンプルで理解しやすいものです。

 

 明確な目的を持って進められるビジネスの国際化ですが、それを操作している人々の個々の仕事においての目的はどうでしょうか? ビジネスを動かすのは人です。よくビジネスは生き物だと言われますが、そのビジネスという生き物を直接、または間接的に操るのもやはり人です。人が存在しなければ、ビジネスというもの自体が存在しない訳ですから、当然のことです。

 

 国際化された舞台で活躍する人々が行うべきことについては、先ほどお伝えしています通り、はっきりとしていません。  国際化されたビジネス環境では、人は誰でもHard SkillとSoft Skillを向上させるテーマは持っていますが、達成すべき具体的な目標やその手段についてはオープンエンドになっているからです。

 

 こうして考えてみますと、一つ興味深いことに気づきます。国際化を進展させるビジネス活動の目的と、そのビジネス活動を進めるために一人一人が行う仕事において目指すべき目的にはギャップが存在することが分かります。事業として進めるビジネス活動においては目指すべき明確な目標が存在しますが、海外のカウンターパートを相手に人々が行う日々の業務レベルにおいては、それが存在しないのです。

 

 ではこの違い、またはギャップは何を意味するのでしょうか。

 

 色々な見解を示すことができるでしょうが、間違いなく言えることは、国際化されたビジネス活動というものは、その規模の大小は問わず、変化が簡単に起きやすい環境にあるということが言えます。別の言い方をすると、ビジネスの国際化、グローバリゼーションは、大変不安定なものであるということです。

 

 ビジネス活動自体は、非常に明確な方向性と目標に基づいて進められていきますが、それを進める人々が個々に携わる日々の仕事はと言いますと、目的を達成する上でどのように振る舞うことがベストなのかがはっきりしない状態なのです。このような環境の中で、人々はそれぞれ正しいと思うことを行いながら、仕事を「効率的に」進めていこうとします。もちろん誰もが自分が行うことをビジネスの成長と効率化に直結させるべく仕事をしようとするのですが、「文化の壁」や「ネイティブ英語・外国英語の障害」の影響は、誰もが平等に受けます。そしてこれらのコミュニケーションの阻害要因の影響を受けて、進もうとする方向が知らず知らずのうちに変わり、歯車が狂いだしてしまいます。その結果として、自分の仕事が意図した通りに進まず、目指している目標とはかけ離れた結果を招いてしまうのです。

 

 「文化の壁」や「ネイティブ・外国英語の障害」といった決して解決することのない問題というものは、問題を解決するための進むべき「正しい方向」は存在しません。それでも国際舞台で活躍するビジネスマン・ビジネスウーマンは、問題を解決すべく何らかのアクションをとらなくてはなりません。そうしなければ自分の仕事が進展しないからです。このような状況下で進む方向を決めなければならなくなった際、彼らが頼りにできるのは、自分の判断力しかありません。進むべき「正しい」方向が存在しない環境なのですから、自らの判断で正しいと思った方向に進むこと以外、方法はありません。

 

 このような環境、つまり誰もがゴールがどこに存在するか分からないまま自分の信じる方向に進む環境では、人々が進む方向において一貫性や規則性は存在しません。みんな各々が個人的に「正しい」と思った方向に進んでいるということになるでしょうか。個々が進んでいる方向性にまとまりがない状態では、企業全体がビジネス活動の目的(成長と効率化の最大化)に向けて進めるのが難しくなるのは当然です。そして時として、舵が効かなくなり、意図しない方向に進んでしまうことがあるのも理解できると思います。

 

 国際化されるビジネス環境では、人々がいくら効率よく仕事を進めようとしても、進む方向性にまとまりがない状態は変えられません。これは考えてみればこれは大変皮肉なことですが、避けようのない現実でもあります。ビジネスのグローバリゼーションは、これからどのような技術の進歩や発展があったとしても、それに携わるのが我々人間である以上、決して安定化することがない不安定な活動なのです。

  

 近年の新興国経済の発展は、新しいビジネスチャンスがこれまでよりも多くの市場で生まれていることを示しています。ビジネス全体の市場機会を考えた場合、これは大いに歓迎すべきことです。その一方で新興国経済の発展は、こうした国々から新しいプレーヤーが世界市場に参入するということも意味しています。これは国際競争がますます激しくなることにつながりますが、それと同時にビジネスの国際化を進め、成長させていく上で、提携先の候補など、新しいオプション・可能性が提供されたことにもなります。ですからこれもまた、ビジネスや経済の発展においてすばらしいことです。こうしたチャンスを積極的にものにしていくことが、これからのビジネス、特に日本のビジネスを発展させていく上で必要不可欠であることは、第1章でお伝えした通りです。

 

 しかしこうした流れは、我々の前に新たな課題を突き付けています。上に示した新しい国際化の流れがもたらすチャンスをものにするには、こうした新しい国々の文化、習慣、価値観、そしてそれぞれの国独自の「外国英語」に対する理解を深めていかなければなりません。別の言い方をすると、我々の新たな課題とは、これまでそれ程考慮しなくてもよかった「文化の壁」と「外国英語の障害」の理解を深め、適切に対応しなければならなくなることです。もちろんこれは、これまでに存在しお付き合いをしていた「文化の壁」と「ネイティブ英語・外国英語の障害」を疎かにしてよいというものではありません。

 

 

 

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