第2章 異なる文化と付き合う 【5/5】

異なる文化を持つ人と接し、仕事をするとはどういうことか

 

 現在のビジネスの世界で英語を使う人たちは、英語を母国語とする人々だけではありません。世界各国のあらゆる文化や習慣を持った人々が、英語を国際語として使っているのです。多くの日本人が日々英語を使って仕事をしていること自体、その典型的な例といってよいでしょう。英語という言葉を上手に活用することは大事ですが、英語を使って意思の疎通を図ろうとする相手のバックグラウンドを十分考慮することも、海外の企業や人々を相手にビジネスを進めるうえで大変重要です。「文化の壁」を考慮することを英語では「to have cross-cultural sensitivities」という表現で表します。ビジネスの場で英語を用いてコミュニケーションをとるときは、相手がだれであろうと、その人の文化や習慣に対する感度「sensitivity」を上げて注意を払う必要があります。これは相手との人間関係を上手く構築するためだけでなく、自分の仕事を効率よく進展させていくためにも重要なことです。

 

 次の第3章では、この章で考えました「文化の壁」がもたらす問題を踏まえ、現在のビジネスの場で使われている英語にはどんなタイプがあるのか、それぞれのタイプがどのような形でコミュニケーションを妨げてしまうのかを考えていきたいと思います。

 

 

付録

 

 国境をまたいだコミュニケーションを語る上で、世界中の「誰もが持っている厄介なもの」について話をしない訳にはいきません。

 

 この、「誰もが持っている厄介なもの」とは何のことだと思いますか? 今一つ、ピンときませんか? それではヒントを出しましょう。

 

ヒント1: この誰もが持っている「もの」は、目に見えるものではありま

      せん。

 

ヒント2: なぜこれが厄介かというと、この「もの」はほとんどの場合、

      正しくない、もしくは実情とかけ離れています。

 

分かりましたか? 答えは、人々が持っている他の国やその国の文化・習慣に対する「固定観念」です。

 

 人は誰でも自分とは異なる国や文化対し、何らかの「情報」を持っています。この章の2.2で「B共和国のAさん」の話をしましたが、この人もご自身が直接日本と直接関わりを持つ前から、情報の量が多い少ないは関係なく、日本についての情報を持っていました。情報の入手先は、親兄弟や知人から聞いた話や、学生時代に習ったこと、それに新聞やテレビなどのメディアから得た情報など、入手ルートは様々です。そういた情報が積もってできた「固定観念」は、大体現実とはかけ離れたものなのですが、それを語る人にしてみれば、間違っていないと保証はしないまでも、事実でもおかしくないと思っています。

 

  ■ 「日本人の男性は、今もちょんまげに着物姿で、刀を付けて歩い

    ている。」

  ■ 「アメリカ人は、毎日ハンバーガーを食べて生活している。」

  ■ 「フランス人は、いつもベレー帽をかぶってパイプをふかしながら

    カフェでコーヒーを飲んでいる。」

 

 上に挙げたものは、その程度の低さから「固定観念」として扱われないかもしれません。しかしこれと似たような「情報」が、我々の生活の中で飛び交っているのも事実です。このような「情報」は、単なる冗談であり正しいと思っていない人もいれば、真実だと信じて疑わない人もいます。真実だと思っている人々のほとんどは、悪意もなければ罪の意識もありません。自分たちの生活に直接関係ないことなので、本当のことを知らない、または知る必要がないだけなのです。

 

 上に挙げたものとは全く逆のタイプの「固定観念」もあります。

 

    「日本は礼に始まり、礼に終わる文化を持っている。そしてこの

    国に住む人々はみんなこの観念を理解し、毎日の生活に取り入

    れている。だから日本人はいつも礼儀正しく親切で、自己を主張

    することなく相手を立てることをわきまえている人たちである。」

 

 日本を非常に評価してもらっており、嬉しい内容になっていますが、体中がこそばゆくなるといいますか、違和感を覚えてしまうのも事実です。なぜならこれも決して正しいとは言えない「固定観念」だからです。(残念ながら…。)

 

 「固定観念」は間違いばかりだから持つことはダメなことだ、といってしまえばそれまでですが、だからといって消えてなくなるものでもありません。間違いなく言えるのは、こうした「固定観念」は、他国の本当の姿を知る上で邪魔なものであるということです。そしてこの章を通して考えている「文化の壁」に対応する際に、事実と異なる「固定観念」という名の「情報」は悪影響をもたらすので注意する必要があります。

 

 今日でも、上にお伝えした「固定観念」に惑わされる人が少なくないのは事実です。海外の人々とコミュニケーションをとる際は、十分気を付けてください。そしてあなたも知らず知らずのうちに、海外の国や人に対して何らかの「固定観念」を持っている可能性がありますので、それも合わせてご注意ください。

  

 

 

<< 前に戻る               次に進む>>

 

  

 

                サイトの利用条件    個人情報の扱いについて