第6章 仕事英語を身につける 1 【1/8】

情報を確実に相手に伝える手段

 

6.1. 海外を仕事相手に効果的に情報を伝える

 

 ビジネスを成功に導くために、そして自分の仕事を計画通りに進めるために行わなければならないことはたくさんありますが、その中でも顧客や取引先、そして社内関係者とのコミュニケーションを円滑に進めることは、必要不可欠なプロセスです。要求された情報を相手に提供する、そして必要な情報を相手から入手することを積み重ねていくことができて、仕事は到達すべきゴールに向けて進展していきます。効率良くビジネスコミュニケーションとることは、こうした「情報の提供と収集」作業がスムースに行えている、ということになります。これは日本語で行うビジネスでも、そして海外の仕事相手と行う英語のビジネスコミュニケーションにおいても同様です。

 

 前章では、海外のカウンターパートが持つ不信感や警戒心を解消する手段として、セルフ・ポジショニングの構築について説明しました。セルフ・ポジショニングを構築し、自分が「予測可能な存在」になることは、異なる「当たり前」を持つ仕事相手と人間関係を築き仕事を進展させる効果的な手段です。

 

 しかし前章でも「ローマは1日にして成らず。」と言いましたように、しっかりとしたセルフ・ポジショニングを確立するには、ある程度時間が必要なことも事実です。自分自身を「予測可能な存在」にする行動パターンを相手に植え込むプロセスですので、時間がかかるのは仕方のないことでしょう。

 

 もしこのプロセスが終了するまでは仕事をしないということになれば、それは現実的でないばかりか、本来の目的である仕事の質と効率を上げることから大きく逸れることになってしまいます。従って、セルフ・ポジショニングの構築は、実際に仕事上必要な「情報の提供と収集」作業と別々に行うものではなく、同時進行させていかなければならないものとなります。セルフ・ポジショニングを築きながら仕事を進める訳ですから、海外のカウンターパートを相手に仕事を進めるということは、お互いにある程度の不信感や警戒心を抱いたままの状態で進めていくということになります。

 

 こうした環境の中で、ビジネスを進展させ成果を上げていくには、どのようなコミュニケーション手段が必要となるでしょうか。先ずは、自分から海外のカウンターパートに対して伝える(発信する)情報をどのように伝えたらよいかを考えていきましょう。

 

 【注】仕事上の人間関係をスムースにし、問題発生のリスクを軽減さ

    せることにおいて、セルフ・ポジショニングがもたらす効果は絶大

    です。時間がかかるプロセスではありますが、誰に対してもコツ

    コツと築き上げていくことが仕事を楽に進めることに直接つなが

    っていくことは間違いありません。ここで改めてセルフ・ポジショニ

    ングを確立していくことを強くお勧めします。

 

 この章では色々な事柄を紹介しますので、本題に入る前にこの章の構成について簡単に説明します。

 

 次の6.2では、海外の仕事相手に向けて情報を発信する前に行う事前準備の仕方について説明します。相手に情報を伝える前にとるべきアクションは何か、そして検討すべき事項は何かを実際に起こり得る状況(ケース)を設定し、考えていきます。

 

 6.3では、海外のカウンターパートに伝える情報は、何に注意したら伝わりやすく効果的な情報になるかを考えていきます。そして情報を作成する際に守るべき6つのルールを、文例交えながら紹介していきます。

 

 そして6.4と6.5はケーススタディを用い、本章で紹介した内容を実際に活用しながら仕事相手に伝える情報を作成します。ここで設定するケースは、ビジネス場で実際に起こり得る状況です。これらを検討することで、他のケースにも応用できると思います。

 

 

6.2. 情報発信の前の準備とシナリオ作り

 

 海外のカウンターパートとのコミュニケーションは、「文化の壁」や「ネイティブ英語の障害」、そして「外国英語の障害」が影響することから、必然的にリスクが高いアクションとなります。こちらから仕事相手に情報を送る際は、どんなに些細なことでも準備作業を行う習慣をつけることが効果的に仕事を進める上で重要となります。

 

 仕事でアクションをとる前に準備作業を行うことは、何も英語を使ったコミュニケーションだけのことではない、という考えの人も多いでしょう。全くその通りだと思います。ビジネスにおいて事前準備は、その行い方次第で得られる成果が大きく変わると言っていいくらい重要なプロセスであると思います。海外の仕事相手とコミュニケーションをとる作業は、文化や習慣の違いなどから、どんなに気を付けていても認識のギャップを生んだり誤解を招いたりするなど、多くのリスクがあります。従って、普段の活動において事前準備を行うことに慣れていない人も、英語を使うコミュニケーションにおいては、事前準備作業を行う習慣をつけることをお勧めします。

 

 では、こちらから海外のカウンターパートに情報を伝える際、どのような事前準備を行えばよいのでしょうか。下の状況例を使いながら考えていきましょう。

 

 状況設定

  ■ いろは株式会社の近藤四郎さんが、中国にあるXYZ

    CorporationのMike Liさん(李さん)に連絡をする。

  ■ いろは株式会社は自社で開発した電化製品をXYZ Corporation

    に製造委託すべく、話を進めている。

  ■ 近藤さんは、この製品を受け持つ部署の係長で、相手のLiさんも

    該当する電化製品の製造部門の係長レベル。これまでメールの

    やり取りは何度かしているが、直接会ったことはない。

  ■ XYZ Corporationは製造技術力と品質管理には定評がある。い

    ろは株式会社としては、製品の品質を落とすことなく効率化を進

    めたいので、XYZとはよい関係を築き提携したいと考えている。

 

 

  

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