4.1. 実は知らないことだらけの関係だった
この章では、読者のみなさんに自らが日々直面している仕事環境について考えて頂きながら話を進めていきます。第2章と第3章で紹介した英語のコミュニケーションで起きる問題のおさらいをしながら、これらの問題に対する認識を読者一人ひとりの個人的なレベルにまで落とし込んでいくのがその目的です。色々な質問や問いかけをしながら進めますので、立ち止まって考えることが多くなると思います。少々大変かもしれませんが、「仕事英語を身につける」上で重要なステップになりますので、しっかり考えてください。
それでは、はじめましょう。
もし今あなたに海外の仕事相手がいるならば、その人(またはその人たち)のことを思い浮かべ、その人の性格、仕事ぶり、長所や短所など、その人について思うことを並べてみてください。そして今度は反対に、あなたの仕事相手があなたのことをどのように思っているかも想像してみてください。(もし今はまだ国外のカウンターパートがいない場合は、過去に一緒に仕事をしたことがある海外の方や、在学中に知り合った海外からの留学生の方でも結構です。)
あなたは海の向こうの仕事相手のことを、どれくらい理解していますか? また反対に、あなたのカウンターパートは、あなたのことをどれくらい理解していると思いますか? ここで言う「理解する」とは、前の2つの章で記した事柄を踏まえてのことです。従いまして、「理解する」とは、ただ単にその人の会社での部署名や担当している仕事だとか、その人の得意とする専門分野が何かとか、または家族構成やオフときの趣味が何かということだけではありません。その人のバックグラウンドにある文化や習慣について、つまりその人が当たり前とする生活様式全体についてどれくらい理解しているかを考えてみてください。
下に並べました項目について、一つひとつじっくりと検討してみましょう。すべての項目は「Yes」か「No」で答えられるようになっています。100パーセント自信があるもののみに「Yes」とお答えください。(80%や90%ではだめです。)あなたはこれらの項目のなかで、「Yes」と答えられるものはどれくらいありますか? 反対に、あなたのカウンターパートはあなたについて、どれくらい「Yes」と言えるものがあると思いますか?(仕事相手のあなたに対する理解度を考えるときは、下の「相手」を「自分」に置き換えて考えてください。)
① 相手が住む国や地域の文化(歴史、社会・政治情勢、伝統、風
習など)を熟知している。
② 相手の仕事の進め方において、文化が背景になった物事に対す
る思考方法や価値観を理解している。
③ 相手が情報を発信する際に使う英語を問題なく理解することが
できる。(「ネイティブ英語の障害」もしくは「外国英語の障害」は
この人の間では存在していない。)
④ 相手の思考プロセスや相手が持つ判断基準は、いつもはっきり
と理解できる。(相手が伝える情報を誤解してしまうリスクはな
い。)
⑤ ビジネス常識において、自分が感じる「当たり前」と、相手が思う
それとの共通点と違いがはっきり分かっている。
「理解する」ということを上に記したように定義づけますと、100パーセント自信をもって「Yes」と言える人は、いないのではないでしょうか。
あなたのカウンターパートが持つあなたに対する認識はどうでしたか? これもやはり、あなたについてすべて「Yes」と答えられると思う人は、いないのではないでしょうか。前の章でも考えました通り、自分のものとは異なる文化をマスターすることや、カウンターパートが使う英語(ネイティブ英語・外国英語)を完全に理解できるようになることは、ほぼ不可能です。従って、全部「Yes」言える人はいないのが当たり前になります。
もちろん、完全に「Yes」とは言えないまでも、ある程度は自信があるという人もいるかもしれません。そういう人は以下のいずれかの仕事環境に身を置いているのではないでしょうか。
■ 仕事相手がいる国・地域で長期間生活したことがあり、向こうの
文化や習慣に対する理解がある。
■ 仕事相手が日本での生活経験がある、もしくは日本の文化や習
慣に大変深い理解がある。
■ あなたとあなたのカウンターパートとは長期間にわたり仕事を行
っている関係にあり、お互いの理解度が非常に高い。
上に記したような環境で海外の企業や人々を相手に仕事ができるのは、大変すばらしいことです。しかし、国際化が進む現在のビジネス環境において、このような環境に身を置けるケースは稀であると言えます。
今の世の中、ビジネスの速度は速くなる一方で、状況が変化する頻度もますます高くなっています。進行中の事業の方針が変わる、ビジネスパートナーとの連携関係が解消する、人事異動で自分の担当変わる、休職、退職などで先方の担当者が変更する、といったことが1年のうちに何度も起こるのは、珍しいことではありません。腰を落ち着けてじっくりと活動を展開することや、担当する人と長い時間をかけて人間関係を構築していくことが大変難しい環境になっているのが現状です。従いまして、今日の我々を取り巻くビジネス環境も、お互いを「理解する」ことを不可能に近い環境にしてしまっているともいえるでしょう。