第2章 異なる文化と付き合う 【3/5】

異なる文化を持つ人と接し、仕事をするとはどういうことか

 

 ここまででお伝えしたかったことは、海外の人々とコミュニケーションをとる際は、「言葉の壁」以外にも「文化の壁」というものが例外なく存在し、誤解を招いたり意思の疎通を妨げたりする要因となるということです。ここからは海外の企業や人々を相手に仕事をしていく上で、この「文化の壁」をどのように対応すればよいかを考えてみましょう。

 

 

2.3. 異文化をマスターする…?

 

 「文化の壁」を乗り越える最も効果的な方法は、対象となる国や地域の文化や習慣を100パーセント理解することです。そうすれば海外の人々との常識や価値観のずれによって生じてしまう問題に、頭を悩ませることはなくなります。他国の文化や習慣をマスターしたら問題解決となる訳ですが、果たしてこれは現実的な手段でしょうか。

 

 ここで再び日本の文化を理解することを例にして、考えてみましょう。

 

 ここにAさんという、海外の国(B共和国とします)に住んでいる方がいるとしましょう。 年齢は45歳で、B共和国の大手企業の課長職に就いています。 Aさんは日本や日本人のことについては、自国の新聞や雑誌、テレビなどで紹介される程度の知識があります。これまで日本で生活したことはありませんし、日本という国に特別なつながりがある方でもありません。つまりAさんは、典型的なB共和国の人です。

 

 ところが先週Aさんは会社の上司に声をかけられ、日本の会社と進めている事業の責任者になるよう要請されました。 Aさんはこのほかにも担当している職務があるのですが、この事業は会社が進めている大きなプロジェクトの1つであることを知っていました。さらに、前任者が日本の企業と関係を上手く構築できず、思うような成果が出ていないことも知っていました。Aさんは色々と考慮した結果、この役割を引き受けることにしました。

 

 この事業の責任者は、仕事相手となる日本企業の責任者とはもちろん、実務を進める担当者レベルの人たちとも頻繁にコミュニケーションをとりながら連携を図らなければなりません。日本人としっかりとコミュニケーションをとりながら、プロジェクトを進展させるには、日本の文化や習慣についてもよく知っていなければならないと考えたAさんは、早速日本に関する本を買い集めました。 Aさんは他の職務もあってなかなか時間をとることができない中、日々勉強しています。

 

 Aさんは、果たして日本の文化や習慣をマスターすることができるでしょうか。我々日本人の目から見て、どうでしょうか。皆さんが考える答えは、多分下のようなものではないでしょうか。

 

  「日本の文化は大変奥の深い文化だ。海外の人が日本の文化を理

  解するのは大変なことで、本を読んだから分かるというものではな

  いと思う。もちろん、本である程度の知識を得られるのかもしれない

  けれど、やはり時間をかけて実体験を多く積まなければ、本に書か

  れた内容もちゃんと理解できないだろう。」

 

 日本の文化や習慣について理解を深めるには、ある程度日本語も分からなければならないでしょう。今日本で起きていることを理解するには、歴史的な背景を理解しなければならない事柄も多々あります。これらをマスターするのを、これまでの45年の人生で日本と直接的な関わりがなかったAさんに期待するのは無理でしょう。 海外の人たちが日本の文化や習慣を理解するのは、簡単なことではないのです。いや、簡単なことではないというよりも、これは不可能に近いことだ、といったほうが現実的かもしれません。

 

 それでは今度は立場を逆にして考えてみましょう。 もし我々がAさんと同じような状況になり、これまで全くと言ってよいほど関わりがなかったB共和国の企業及び人々と仕事を進めていいかなければならなくなったら、どうでしょうか? B共和国の文化をマスターできるようになるでしょうか。やはりこれも、先ほどと同じ理由で不可能に近いことだと言わざるを得ないと思います。 (私もアメリカに延べ15年程住んだ経験がありますが、住む期間が長くなればなるほど理解できなくなってしまうといった経験があります。)

 

 他の国の「当たり前」を本当に理解することは、その国の言葉をマスターすることよりも難しいかもしれません。文化とはその国の言葉や歴史、それに信仰する宗教に気候や地形など、様々な要素が重なり合いながら時間をかけて構築された「生活様式の総体」ですから、これまで関わりがなかった人がすぐに理解できるものではないことはお分かり頂けると思います。

 

 

2.4. 「文化の壁」は乗り越えるものではない

 

 常に存在するけれど、克服するのが難しいのが「文化の壁」です。海外相手のビジネスにおいては大きなリスクとのなる訳ですが、解決の糸口を見つけるにはどうしたらよいでしょうか。

 

 「文化の壁」を取り巻く不安定な要素を軽視したり、無視したりすることは解決にならないことは言うまでもありません。 「文化の壁」を無視したとしても、それでこれに伴うコミュニケーションのリスク消えてなくなるわけではないのですから。

 

 では逆に、様々な手段を用いて「文化の壁」を取り払う、または乗り越えようとする行為はどうでしょうか。これもよい策とは言えません。なぜなら、乗り越えるためのアクションが何であるかが誰にも分からないからです。相手の文化を完全に理解することができない状況なのですから、その人との間にできた「文化の壁」を乗り越えるために必要なアクションが何なのかが分かることは、ありえないのです。もし仮に必要なアクションが分かっている状況があるとすると、そこにははじめから「文化の壁」は存在しないはずです。

 

 仕事を進めていく上で、海外の仕事相手と人間関係を構築することは重要であり、必要なことは誰もが同意できることです。「文化の壁」を乗り越えようとする行為は、そのために何をすればよいか分からない以上、失敗するリスクがあまりにも大きい行為であるとご理解頂けるでしょうか。「文化の壁」は解消したり、乗り越えたりすることができるものだと考えるのは、危険なことです。

 

 

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